技前にすること
時期は六段受審前頃だったと思う。無地の手ぬぐいを買い求め、自分なりの課題を箇条書きにし(下写真)、面をつける時に確認できるようにしていた。
手拭いには、先生方からの注意点、本や雑誌から得た知識をその都度自署していた。自分なりの、上達のための工夫だった。
手拭いに書き入れた教えの中でも、これはすごいなと思っていたのが、これから紹介する高野茂義先生の攻めについての一文である。
「先に攻め、相手をおびき寄せ、先をおこさせ、先に打たせ、その先を打て」
剣道雑誌にのっていたものだと思う。
高野茂義先生は、昭和初期剣道界の第一人者である高野佐三郎先生の養子で、剣道家として名を馳せた。昭和の剣聖と謳われた父、佐三郎の養子に見込まれただけあって、その剣の腕前は当時も高く評価されていた。その高野先生が遺した極意である。わかりやすい表現ながら、奥が深い。
若い時は、誰でも打たせずに相手よりも早く先に打ちたいと思うものである。しかし、この一文では、相手に先に打たせることに重点を置いている。これを読んだ時まだ若かった自分は驚かされた。その瞬間、私の剣道観が変わったように思う。
「先に攻め、相手を崩して、相手をおびき寄せ、先をおこさせ、先に打たせ、その先を打て」
先生の教えに、大胆にも「相手を崩して」という一節を独断で付け加え、今でも技前の心得としている。
もし相手より先に打とうという欲心があったら、是非思い出して欲しい。
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